第1章 アルコール依存症とは?

 アルコールは、依存性薬物の一種である。依存性とは、薬物を摂取することによって様々な問題が出ているにもかかわらず、その薬物を止めることができなくなる性質のことである。麻薬、覚醒剤、シンナー、マリファナ、コカイン、睡眠薬、抗不安薬、鎮痛剤などにも、依存性がある。
 アルコール依存症は、アルコールの持つ依存性によって発病する。耐性、飲酒行動の異常、離脱症状が、主な特徴である。

耐性

 習慣的に飲酒していると、気持よく酔うために必要とするアルコール量が増えてくる。はじめは日本酒にして1合でほろ酔い気分になったのに、3合でも酔った感じがしなくなる。これを耐性という。
 しばらく断酒した後で飲酒した場合は、アルコールに弱くなっているが、飲み続けると、すぐにもとのように強くなる。
病気が進行すると、耐性が落ちてきて、少量の飲酒でひどく酔うようになる。

飲酒行動の異常

 少しでもアルコールを口にすると、ほどよい量で切り上げることができず、必ず飲み過ぎて問題を起こしてしまう。アルコールをほどよい所でとめる能力が無くなったためである(コントロール障害)。
 これが正常な大量飲酒者とアルコール依存症者を区別する大切な点である。つぎの唄の文句がこのことをよく表している。

ちょいと一杯のつもりで飲んで
いつの間にやらはしご酒
気がつきゃホームの
ベンチでごろ寝
これじゃからだに
いいわけないよ
わかっちゃいるけど
やめられない
(青島幸男作詞)

 いったんコントロール障害を起こしてしまうと、一生もとに戻らない。するめがいかに戻れないのと同じである。だから、アルコールで問題を起こしたくないと思えば、完全にアルコールを断つ以外に方法はない。
 コントロール障害を起こしているかどうかは、検査では分からない。その人のアルコールの飲み方で判断するしかない。
  1. 飲酒の時間、場所、量などが住んでいる社会の基準から外れてくる。サラリーマンの場合は、週日に昼間から飲む、職場で飲むなどは常識的ではない。
  2. 毎日ほとんど同じパターンの飲み方をする。初期から中期の人は一日も休むことなく、ほぼ同じ時間に同じ量のアルコールを飲んでいる。
     さらに進むと、目を覚ますと酒を飲み、酔っぱらって寝てしまう、再び目を覚ますとまた飲むということを繰り返しながら何日も飲み続ける(連続飲酒発作)。このときは、飲むことと酒を買いにいくこと以外のことはほとんど何もできない。数日から十数日すると、身体がアルコールを受けつけなくなって、飲酒が止まる。その後しばらくは全く飲まないで過ごす。アルコール依存症が進行すると、連続飲酒発作と断酒を繰り返すようになる。
  3. 今日は少量で切り上げようと決意して飲み始めるが、その通りに実行できない。また、何度も断酒を試みるがいつも失敗に終わる。適量で切り上げることもできないし、自分の力で止め続けることもできない。
  4. 「これ以上飲んだら、いのちが危ない」、「離婚する」、「解雇する」などと言われてもなおアルコールを断つことができない。
  5. ふるえ、発汗、不眠、焦燥感などの離脱症状を予防したり治したりするために飲酒する。このときは、強度のアルコールでも水を飲むよりも早く飲む。
  6. いつでもアルコールを飲めるように準備している。夜中でも買える所を知っている。酒を隠しておく。残りのアルコールが少量になると、次を準備しないと落ちつかない。
  7. 飲酒のために多くの時間とお金を使い、仕事、家庭での役割、付き合い、趣味などをおろそかにする。

アルコール離脱症状群の出現

 アルコール離脱症状群とは体内のアルコールが減少し始めると出てくるもので、そのまま断酒し続ければ、たいていは数日以内に消失する。また飲酒によって体内のアルコールの量をあげることによっても消失するものが多い。
 アルコール離脱症状群は、その出現の仕方によって、二つの群に分けられる。
  1. 早期離脱症状群
     飲酒をやめて数時間すると出現する。そのまま断酒すれば数日のうちによくなる。飲酒によっても軽快するが、この場合は飲んだアルコールが新たな離脱症状の原因になるという悪循環に陥る。
     症状としては、手や全身のふるえ、発汗(特に寝汗)、不眠、吐き気、嘔吐、血圧上昇、不整脈、焦燥感、集中力の低下、幻聴、てんかん様けいれん発作などがある。
     てんかん様けいれん発作は、アルコールてんかんと呼ばれるもので、90パーセント以上が断酒後二日以内に起こる。発作の回数は1ー3回で、いわゆる大発作の形で起こる。抗けいれん剤を服用する必要はない。
  2. 後期離脱症状群
     振戦せん妄ともいう。お酒をやめて2ー3日目に生じ、たいていは3日くらいでよくなるが、まれに3カ月ちかく続くことがある。主な症状は、幻視、見当識障害、興奮である。
     幻視とは、実際には見えるはずのないものが見えて、それを信じ込んでいる状態である。小さな動物が群れて見えることが多い。また幻聴を伴うこともある。見当識障害というのは、時間や場所、人物の見当がつかなくなることをいう。この様な症状のために、不安や恐怖が強く、興奮して騒ぐことが多い。この外、発熱、発汗、振戦などの自律神経症状を伴うことが多い。
 問題を起こさず飲酒することができず、アルコールが切れてくると何らかの離脱症状が出てくる人は、アルコールに対するコントロール障害を起こしているのである。上記の症状の全部がそろう必要はない。当てはまらない部分がたくさんあるので、自分はアルコール依存症ではないとは言えない。自分と違うところをさがして安心するのではなく、当てはまる部分の故に断酒を決意した方がよい。

アルコール依存症の経過

 発病年齢や経過は人によって様々である。
 治療しないで放置しておくと、アルコール関連の体の病気や、社会的な問題を併発しながら、長い時間をかけてゆっくりと進行していき死に至ることが多い。入院中の人をみると、30才前後で発病し、30代はアルコールが原因の体の病気で内科をよく訪れ、40代になって精神科に入院するようになる人が最も多いようである。アルコール依存症者の平均年齢は、約52才であったという報告もある。長期にわたる問題飲酒のために、健康をそこない、家庭を壊し、仕事をなくし、財産を失い、持っていたものはすべてなくして、死んでいく。
 しかし、断酒を続けることによって、健康な社会生活を送ることは可能である。

アルコール依存症と遺伝

 アルコール依存症は家族内で発症しやすい。これには遺伝の関与が大きい。アルコール依存症者の親は、アルコール依存症の危険率は3倍高い。アルコール依存症の実の親を持つ男の子の場合は、実の親に育てられても、養子としてアルコール問題のない家庭で育っても、アルコール依存症になる率は、対照群に比べて4倍近く高くなるという研究がある。
 双子の研究では、一卵性双生児の方が、二卵性双生児よりも一致率が高い。
 日本人の約44%は、アルコールを飲むと顔が赤くなって苦しくなるタイプの人である。アルコールの代謝過程でできるアセトアルデヒドという物質の酸化能力が弱いのである。このような人がアルコール依存症になる率は極めて低い。
 酔いを楽しむことのできる人は、アセトアルデヒドの酸化能力は正常である。アルコール依存症になる人は、ほとんどこのタイプの人である。この体質は遺伝する。

コントロールが効かないということ

 アルコールを上手に飲めないのが、アルコール依存症の特徴である。しかし、アルコール依存症のかなりの人が、短い期間なら、少量の飲酒で切り上げることができる。しかしそのような期間はそう長くはなく、徐々に一日の飲酒量が増えて、やがて問題飲酒に陥ってしまう。
 一方、最初の一杯からすぐに連続飲酒に陥ってしまい、上手に飲める期間の全くない人もいる。
 どちらにしても、問題のない飲み方を続けて、健康な社会生活を全うすることは不可能である。

この章のまとめ

 いったんアルコール依存症になった人のほとんどは、二度と普通のお酒のみには戻れないこと、健康な生活を続けたければ一滴のアルコールも口にいれてはいけないことを、しっかりと覚えておいていただきたい。
 次のように考えている人は、まだ断酒しようとは思っていないのであり、さらに病気が進行する可能性がある。

 (1) 飲み過ぎが悪いのだから、二合以上は絶対に飲まないようにしよう。
 (2) 週日には飲まないで、土曜日の晩だけ飲むことにしよう。
 (3) 強いアルコールに手を出すとよくないので、ビールだけ飲むことにしよう。
 (4) 意志さえしっかりしていれば、飲んでも問題は起こさないだろう。
 (5) もう3年もやめたのだから飲めるような体になったかも知れない。
 (6) ちょっとくらい飲んでも、酒を切って病院に帰ればわからないだろう。
 (7) やめようと思えばいつでもやめられるので、アルコール依存症ではない。

 毎日飲まずにいられないのがアルコール依存症ではない。アルコール依存症の人は、飲まないでいることはできる。しかし、飲み始めるとほどよいところで止められなくなる。

アルコール依存症の診断基準

 過去の1年間のある期間に、下記の6項目のうち3つ以上が同時に起こっているときにのみ、アルコール依存症と診断する。(国際疾病分類の第10版の診断基準をもとに一部改変)

 (1) アルコールを飲みたいという強い欲求がある。また、飲んではいけないと思いながらつい飲んでしまう。
 (2) 飲酒の時間や量をコントロールすることができない。
 (3) 飲むのを止めたり量を減らしたりすると、離脱症状が出る。
 (4) 酔うために必要なアルコールの量が増えてきている。
 (5) 飲酒に関することに多大の時間、お金、労力を使い、それ以外のことをおろそかにする。
 (6) 飲酒によって問題が起きているのが明らかであるにもかかわらず、飲み続けている。

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